多田知史「The Layers of the feel -重なりあう感触、私という存在-」
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- 2025年11月7日
- 読了時間: 6分
更新日:2025年11月20日
2025.12.1 Mon - 12.15 Mon
このたびSAN BANCHO GALLERYでは、
多田知史による個展「The Layers of the feel -重なりあう感触、私という存在-」を開催いたします。
本展は、SAN BANCHO GALLERYでの3回目の個展にあたり、多田が一貫して探求してきた「心の可視化」の試みが、さらに深化したものとなります。
多田は「人の心」を、単一のものではなく、矛盾と融和を繰り返しながら重なり合う複数の層として捉えています。その複雑な心の動きや感情の在り方を、形や色彩、絵具の重なりを通して視覚化することを試みています。
これまで多田は、自身が体験した「心」の動きや「感情」の機微、そしてそれによって生じる「感覚」を、オリジナルのモチーフ〈ルルー〉や〈空間構成〉に託して表現してきました。
本展では、より広く「人の心の在り方」そのものに焦点を当て、
「存在は感触」
「決められる私と決める私が手を取り合う」
「複雑なものを複雑なままで」
という三つの軸を通して、新たな表現を展開いたします。
●制作の背景
第1回個展「embrace」 記事を読む
〈ルルー〉という存在の確立を通じて、自分や他者を受け入れ、希望を見出す心の在り方を描いた物語的な展示。
痛みや困難を抱えながらも、それらを自身の一部として受容する姿を表現しました。

第2回個展「感情が織りなす空間」 記事を読む
〈ルルー〉と〈周りの空間〉を媒介に、喜びや悲しみといった感情をさらに深く掘り下げた展示となりました。感情は表面的なものではなく、空間によって構成されているのではないかと考え、“高さ”や“奥行き”といった感覚を抽象的に表現しました。あえて物体として形にせず、「感情」「感覚」を色と空間に託すことで、鑑賞者が自身の内面に触れる体験を目指しました。

これらの経験を経て多田は、「心」「感情」「感覚」といったものは、色彩・奥行き・厚み・光と影・温度・湿度・粘度など、五感で感じられる“モノ”として存在し得るのではないかと考えるようになります。
つまりそれらは「感触」として知覚されるものであるという認識であり、その考えは、本展のテーマである「存在は感触」とも深く結びついています。
本展では、これまでに表現してきた“感触”と、新たに見出した“感触”を重ね合わせ、心の層(レイヤー)として構築する新たな試みに取り組んでいます。
●ルルーという存在
大学卒業後から制作を続け、心の支えとなっていたGiven Series(2008–2021)は、「あたたかさで人を幸せにしたい」という作家の根源的な願いが色濃く反映された作品群です。
家や猫人間、ロウソク、星空など親しみやすいモチーフを通して、「人に喜んでもらいたい」という想いを視覚的に表現しました。当時から赤=あたたかさという単純な象徴にとどまらず、どの色でも温もりを感じさせる表現を追求し、色彩や質感の研究を重ねていました。
しかし制作を続ける中で、多田は「あたたかさ」だけでは人の心に十分に寄り添えないのではないかという疑問を抱きます。
その応答として生まれたのが、Born Series(2020–2024)に登場する〈ルルー〉です。

ルルーは作家自身の過去の経験に根ざした存在であり、抑圧や葛藤からの解放を象徴する「定めに抗う存在」として誕生しました。多田は自身を重ねつつも、心の奥に潜む思いに寄り添う、親密で身近な存在として位置づけています。
ルルーの造形には、西洋・東洋の美術史におけるモチーフや表現技法、美の基準への探究が反映されています。自然が生み出すフォルムや、古代の神像・木像・土偶、人間や動物の身体的形態などの研究を経て、現在の姿が形成されました。
現代において、人々はマスクや眼鏡を付けたり、SNSでは匿名で意見を発信したりすることで素顔を覆い隠す一方、メディアや広告ではキャラクターが視線を引きつける存在となっています。多田は、現代社会では顔よりもキャラクターの方が心情を伝える手段として適していると考え、〈ルルー〉を【現代のトローニー(表情の寓意)】として位置づけました。
ルルーを通して、多田は人間の多様な「心」「感情」「感覚」のかたちを描き出しています。それはルルー自身の世界を描くのではなく、ルルーを媒介として心象風景や現代社会の諸相を映し出し、鑑賞者に「感触」として感じてもらう表現となっています。
●今回のメイン作品について
本展では、Given SeriesとBorn Seriesの架け橋となる作品群を展示します。
Born Seriesの延長線上にありながら、両者の間に横たわる「感触」の層をつなぐ表現が試みられています。
中でも、本展の起点となったメインの100号作品は、両シリーズをつなぐ重要な新作です。
多田は次のように語ります。
「これまでの様々な場面で、自身を抑圧しても『相手やこの場はこうなのだろうな』という気持ちを、自分の気持ちと置き換えるようにして振る舞うことがありました。自分を抑えることを止めれば済む話でもなく、相手や外側を悪や暴力と断じれば済む話でもないと思います。それでは立場が入れ替わるだけで、何も変わらないように思います。人と人の間では小さな、あるいは大きな齟齬や誤解、認知のズレから摩擦が起きます。しかしそこに至る前に、人の内側では、私と私が外側と思っているものとの間や、様々な本当の私たちが、自己決定のための摩擦をいつも起こしているように感じました。内側、外側、その間の摩擦の感触に触れた時、この作品が生まれました。」
多田は、人の心はGiven Seriesのように「外部から受け取る想い」と、Born Seriesのように「内側から湧き上がる想い」が交錯することで成り立つと考えています。この往還は誰もが経験する普遍的な心の構造であり、多田はそこに深い共感を寄せています。
多田の言葉の通り "本当の私たち" は、自己決定のために外側からの影響や内側からの感情、そしてその間に生まれる揺らぎのような力を絶えず受け取り、押し返しています。こうした摩擦は、私たちの生活や行動において絶えず生まれてきます。
その感触に触れ、確かめることこそが、「決められる私と決める私が手を取り合う」というテーマにつながります。
また、「複雑なものを複雑なままで」という視点は、一つでは構成されない心の豊かさを、そのままの姿で肯定する姿勢を示しています。
こうした思いをのせ、今回の個展はタイトルにも表現された「The Layers of the feel -重なりあう感触、私という存在-」として開催いたします。
複雑で豊かな心の層の世界を、ぜひこの機会にご高覧ください。

多田 知史 Satoshi Tada
○経歴
1978年 山形市生まれ
2001年 東北芸術工科大学卒業制作展・優秀賞
2005年 第101回太平洋展入選
第4回新風舎文庫大賞ポストカードブック部門・優秀賞
日本現代作家ドイツ展 入選(共催は国際美術審議会、
CEPAL(欧州芸術振興協会))
2006年 第102回太平洋展 入選
2007年 第11回越後湯沢全国童画展・奨励賞(新潟県)
第103回太平洋展入選・椿悦至賞・会友推挙
「ろうそく村」日本現代作家フランス展 コート・ダジュール賞
(共催は国際美術審議会、イーグル・ド・ニース)
2009年 第105回太平洋展 入選 会員推挙
2010年 損保ジャパン美術財団 出品
2013年 スペイン・バルセロナ国際サロン金賞受賞
太平洋美術会会員 日本美術家連盟会員
2019年 ブレイク前夜展(東京大丸)
2020年 多田知史展(東京・ドラードギャラリー)
2021年 多田知史絵画展【ドリームシリーズ】(仙台三越)
ART ART TOKYO(東京大丸)
次世代アート展(京都大丸)
2022年 多田知史絵画展(東急本店)
現代アートセレクション(札幌大丸)
ART SHINSAIBASHI(心斎橋大丸)
2023年 多田知史絵画展【夢の中へ】(仙台三越)
2024年 多田知史絵画展【優しい世界】(仙台三越)、【夢の世界】(新潟伊勢丹)
2025年 多田知史絵画展【夢の向こう Beyond Dream】(銀座三越)、【Warmth 心のぬくもり】(新宿伊勢丹)
SAN BANCHO GALLERY
三番町ギャラリー




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